佐野洋子さんの絵本『おじさんのかさ』を紹介します。
2017.10.07
僕はこの絵本をよく法話の中で読み、聞いていただきます。
こんな物語です。
立派なかさを持った、ひとりのおじさんがいます。
そのおじさんは、出かけるときには、いつもかさを持ってでかけます。
備えあれば憂いなし…いいえ違います。
おじさんは、ちょっとの雨ならぬれたまま歩きます。
それより、雨が降ってきたら、雨宿りします。
雨がやまないときは、見知らぬ人でも、その人のかさに入れてもらいます。
もっと大降りの雨のときは、出かけないで家にいます。
それはすべて、自分のかさがぬれないようにするためです。
そんなある日、おじさんがいつものように、かさを持って公園で休んでいると、雨が降ってきました。
そこに小さな男の子が走ってきて、かさを持っているおじさんに「いっしょに入れてってよ」と言います。
でも、おじさんは知らんぷりして、聞こえなかったふりをします。
すると、男の子の友だちの女の子がやってきて、女の子のかさに一緒に入り、二人は歌を歌いながら帰っていきました。
「あめがふったらポンポロロン。あめがふったらピッチャンチャン」…おじさんは子どもたちが歌っていた歌が妙に気になります。
「ほんとかなあ」と。
そして、ついにおじさんは、かさを開きます。
雨がかさに当たると、確かにポンポロロンと音がします。
うれしくなったおじさんは、今度はそのまま街の方へ歩いて行きました。
すると、長靴を履いて歩く音がピッチャンチャン。
「ほんとだあ~」…。
元気よく家に帰ったおじさんは、しっかりぬれたかさを見て、ぬれたかさもいいものだと思います。
「だいいち、かさらしいいじゃないか」と。
僕たちは、こうであるはずだ、こうであらねばならない、という、こだわりというか、頑なに譲りたくないような思いを持ち合わせています。
誰が何と言おうと、「こうなの!」という、自我というか、我執というか…、まことに厄介なものです…。
でも、自分では、もちろん厄介だなんて思っていませんから、他者とぶつかったり、時には喧嘩になったりします。
そんな時に、あるきっかけで、「ほんとかなあ」と、自分にクエスチョンマークが付いた時に、「ほんとだあ」という世界が開けてくるのですね。
私たちは、いつも外にあるものにクエスチョンマークを付けているのではないでしょうか。
あの人は間違っている、社会がおかしい、国家がおかしいと…。
おじさんは、子どもたちの歌がきっかけでしたが、私たちですと、ご本尊に向き合い、手を合わせる時、ということになるでしょうか。
「かさらしいじゃないか」と気づいたおじさんは、さぞかし、嬉しかったでしょう。
きっと、「ほんとう」ということに気づくことは嬉しいことなのでしょうね。
いつも思うことですが、絵本は、子どもにとってとても大切な「ものがたり」ですが、大人にとっても、むしろ、大人になったからこそ、改めて体験すべき「ものがたり」だと思うのです。
法要の後に、「今日はお子さんがいらっしゃいますので、絵本を読みましょうかねえ」とか言いながら、実は「チャンス!」と思ったりして。
大人の方々に「ものがたり」を通して何かを感じ取ってほしいなあと思いながら読んでいます。
まだまだ、オススメの絵本、ありますよ~(^^)